HPVワクチン薬害

HPVワクチン薬害は、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種後に運動系・認知系・自律神経・情動系など広範囲に副反応と疑われる症状が出現したものです。2010年11月に自治体の公費助成が開始され、2013年に予防接種法により定期接種化されましたが、副反応とされる症状がマスコミ等によって広く問題化されたことで、同年中に積極的接種推奨を一時的に差し控えるよう自治体に通知が出されました。2024年6月までに4,073(うち重篤2,385)件のHPVワクチン接種後の副反応報告があり、現在は被害者を中心に、国と製薬企業を相手にした裁判が行われています。

2009子宮頸がんの2価ワクチン承認
2010自治体の公費助成が開始
被害発生
2011子宮頸がんの4価ワクチン承認
2013「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」を結成
予防接種法による定期接種化、その3か月後に積極的接種推奨を一時的に差し控えるよう自治体に通知
2016国と製薬企業を相手に訴訟を開始
2022HPVワクチン推奨再開
年表
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1. HPVワクチンとは何か

HPVワクチンとは、子宮頸がんをはじめ、肛門がん、膣がんなどのがんや、尖圭コンジローマ等、多くの病気の発生に関わるヒトパピローマウイルス(human papillomavirus)に対する感染予防ワクチンです。日本では「子宮頸がんワクチン」とも呼ばれています。

日本では比較的若い年齢層の子宮頸がん罹患率と死亡率が高い状況にあると指摘されており、海外で用いられているHPVワクチンを日本でも接種できるようにするべきであるという声が上がっていました。2008年には医学者を中心とした「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」が発足し、子宮頸がんについて社会・行政に向けた提言を行い始め、2009年には日本産科婦人科学会・日本小児科学会・日本婦人科腫瘍学会が連名で「ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の普及に関するステートメント」を発表しました。

医学界の働きかけを背景に、2010年に国はHPVワクチン接種に関する公的助成である「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」をスタートさせ、その後2013年4月の予防接種法改正により、HPVワクチンは定期接種となりました。日本において推奨される被接種者は、子宮頸部への感染が主に性的接触であることから、性的接触前と想定される11~14歳の女子であり、ワクチンは約6カ月の間に3回接種されました。

2.被害の頻発と医師の無理解

2013年の定期接種化後、HPVワクチンを接種した女性たちに、発熱・全身の痛み・記憶低下・月経異常、光・音・嗅覚の過敏、神経障害といった広範な健康被害が現れていることが明らかになり始めました。マスコミによって健康被害が大きく報道され、HPVワクチンに対する不安感が社会的に高まったこともあってか、厚労省は勧奨接種を一時停止することを決めました。

被害者たちはHPVワクチン接種後の健康被害に対する治療を求めましたが、多くの医師たちの無理解に直面しました。症状を訴えても検査で異常が出ないことから、詐病ではないかと疑われたり、精神的な症状であるとみなされ取り合ってもらえなかったりすることが多く、治療法もないことから、学業や仕事をあきらめざるを得ない被害者もいました。

本来、こうした予防接種における被害では、医薬品副作用被害救済制度や予防接種法による救済がなされます。しかしながら、HPVワクチン接種での被害は、当初は医師が女性たちの訴えを詐病とみなし、申請書の作成に非協力的であり、さらには救済制度も不十分であり、症状について「入院相当ではない」といった理由によって不支給決定が下されることが多くありました。実はこうした有害事象は2013年の定期接種化以前から発生しており、2013年3月には「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が設立されています。

2016年、被害者たちは救済を求め、国と製薬会社を相手に全国4地裁で訴訟を行います。訴訟は現在も進行中ですが、その間、有害事象の原因をめぐっていくつかの説が呈示されました。2014年1月、厚労省の予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会が、接種時の痛みや不安感によって症状が現れたとする「心身の反応」説をとなえます。一方、同年9月には難病治療研究振興財団の研究チームにより、HPVワクチン接種によって過剰な免疫反応が起こり、それが症状を引き起こしているという「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(human papillomavirus-associated neuroimmunopathic : HANS)説」が報告され、接種者全員の追跡調査を訴えました。

3.定期接種化の再開と被害者へのバッシング

HPVワクチン訴訟中の2021年11月、厚労省によって勧奨接種の一時停止が約8年ぶりに解除されました。ワクチン接種群と非接種群の症状に統計的な差がないといった研究結果が公開されたり、HPVワクチンの勧奨接種の再開を求める声が徐々に高まったりしていました。さらに、薬害訴訟が勧奨接種再開の足かせになっているとして原告たちが非難されたり、「反ワクチン派」であるといった揶揄がなされたりしました。薬害訴訟において被害者が市民側から非難されるという点で、HPVワクチン訴訟はイレッサ薬害と共通しており、声を上げる被害者が非難されるという社会現象に対しても検証が待たれます。

参考文献

  1. HPVワクチン薬害訴訟全国原告団,2023,「HPVワクチン薬害訴訟について」(2025年2月11日取得,http://hkr.o.oo7.jp/yakugai/forum/forum25-data/HPV_2023.pdf).
  2. 川西正祐他編,2023,『図解 薬害・副作用学(改訂3版)』南山堂.
  3. 種田博之,2023,「『子宮頸がんワクチン』接種後の有害事象ないし健康被害」『薬害とはなにか――新しい薬害の社会学』ミネルヴァ書房.

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